2011年度版
    今年は3月11日に発生した三陸沖大地震および大津波により被災された東日本の方々には、
    心よりお見舞い申し上げます。


大津波に加え福島第一原発の放射能漏れが重なり未曾有の大震災になってしまいました。16年前には私自身が阪神淡路大震災を経験し、自宅から会社までダメージを受け地震の恐ろしさは身にしみて分かっていればこそ、今回の大震災にはとても心が痛みます。程度の差はあれ同じ被災者として震災を乗り越え事業を続けていることが私からのエールであると思っています。
さて、今年の昆布探訪記ですが一番心配していた放射能による海洋汚染は現在までサンプリング調査で一度も放射性物質は検出されておりません。この記事をご覧になっている皆様にはご安心していただいてよろしいかと思います。今年の訪問は8月23日~26日の日程を組みました。これまでで一番早い日程です。この日程が幸いしたのか5年目にして初めて昆布漁を間近で見ることが出来ました。
 
 
 8月23日(火)天候雨
  函館の天気予報は事前から悪く「またか」と半ばあきらめムードでの関西空港からの出発でした。
昼前に函館空港に着きましたが、予報どおりの雨で結構な降り方でした。空港でレンタカーを借りて北海道大学水産学部へ向かいました。
以前、北大教授で日本の海藻学の権威安井肇氏が弊社へ工場見学にお越しになりその時の縁で今回の訪問が実現しました。

研究室での2時間は天気と時間を忘れるくらい興味深いお話をいただきました。今年の昆布の生育状況、昆布の生態等をとても詳しく説明していただきました。
少し内容をご紹介しますと、私が昆布と若布の違いをお聞きすると「生態的には同類だが昆布は2年生、若布は1年生で胞子を出すところが違う。 また昆布と違い若布は全国で採れる」など明確に教えていただきました。
 
 
    左の画像は安井教授に頂いた資料を手に研究室で澄ましている小生と安井教授を真ん中に昆布の標本を背にしての記念のワンショット

右の方は赤い箱の『
都昆布 』で有名な中野物産の中野社長です。今回私と一緒に各浜を回りました
 
 8月24日(水)天候雨のち曇
 
   
 
今回の訪問はゴルフ仲間の中野社長と一緒ということで久方ぶりにゴルフに興じました。あいにくの天候でしたが、函館山を見下ろす大変きれいなコースで地元とは一味違う白樺の木々に囲まれてリフレッシュできました。メンバーは日頃お世話になっている小安の松永社長と戸井漁協の上野常務を加えた4人です。
この夜は五稜郭近郊の料理店で小安の漁師さんを交えた楽しいひと時を過ごしました。
 
 8月25日(木)天候雨
 
  この日は一番雨脚が強く昆布漁はおろか浜には人影すらありません。

函館訪問はもう5年目になるので人は見えなくても気配で分かるようになってなっていました。

黒口浜瀬田来の海岸を走っているとビニールシートの中に昆布を吊るしているのを発見、車を止めて家をのぞくとおばさんが出てきて色々とお話をしてくれました。
 
 
 
  左の画像がビニールシートの中の様子で拾い昆布を吊るしている。
表面がごつごつしているのがガゴメ昆布でアルギン酸の粘りが強いため昆布表面の液体が糸を引いて垂れている様子がよくわかる。

右は作業場で乾燥昆布を出してきて説明してもらっている様子。ご主人は大分前に亡くなり一人で拾い昆布漁をしているらしく、ここから一度も離れたことも無いと聞いて頭が下がる思いであった。来年またお会いしましょうと声を掛けて瀬田来を後にした。
 
 
 
 8月26日(金)天候晴れ
 
25日の夕方、小安の吉田理事から連絡があり「明日の天候は晴れで風、波とも穏やかな予報のため昆布漁を行う予定です。」とうれしい知らせが入りました。朝6時に起きて連絡すると昆布漁に出ているという確認が取れたので、朝食を摂ってすぐ小安港へ急行しました。港には船が用意されておりすぐさま出港しました。海一面に漁船が浮かび間近で昆布採りの様子が見れてとても感動しました。下に昆布採りから天日干しまでの様子をアップしますのでゆっくりとご覧下さい。
 
 
 
 水中透視器で昆布の生えている場所を確認  竿を差し込んでゆく  昆布をねじリ採る
 
 
     
 親子2代で昆布を引き上げる 少し沖合いでのワイヤー巻き取りによる昆布漁で昆布も大型 透明度が悪く見づらいが透視器から見た海底の様子で昆布らしきものが見える?
 
 
 
漁船を沖から見た様子。逆光だが山並みを背にしたシルエットが美しい。 旗を掲げた船(右側)が疾走して終漁を知らせる 岸壁に着いた船からリフトで昆布を陸揚げする
 
 
     
 軽トラックに積み込む  すぐに天日干しする  太陽光をいっぱいに浴びた昆布
 
 
  大船にて
 
    小安で念願の昆布漁を見た後、白口浜大船へ向かいました。途中以前から気になっていた大船遺跡(縄文時代の遺跡)に立ち寄りいにしえの竪穴住居跡を見学しました。
私達以外に見学者も無く閑散としていましたが、それゆえにタイムスリップした感覚を覚え高台から海岸線を見ていると、昆布を食べて生活をしていた縄文人を想像してしまいました。

昆布はまさに日本の歴史であると言えるでしょう。
 
 
    椴法華から小安に向かう途中黒口浜ではどこも昆布漁はしていませんでしたが、ここ大船では昆布漁が行われたようで軽トラから昆布を吊っていました。左が天然真昆布、右がガゴメ昆布です。同じ真昆布でも本場折浜小安の昆布と幅、形状の違いがお分かりになれると思います。不思議なもので海底の地形、海流などの違いで少しずつ昆布も違っています。
近年では右の ガゴメ昆布が品薄で天然真昆布の倍ほどの値段がついています。
 
 
 
 
 尾札部にて
 
    最後に尾札部を訪問しましたが、あれほど晴れ渡っていた空が豹変し叩きつけるような雨が降り出したのにはびっくりしました。現地の人もお盆以降は何かおかしいと言っておりました。雨の中、加工場へお邪魔し道南地区最高銘柄である尾札部天然元揃昆布の仕立ての様子を見学させていただきました。

左の画像2点はシワを伸ばした昆布を網に並べて温風乾燥する様子です。
 
 
今年の北海道産昆布は減産が予想されていたが、過去最低の16000トン前後になりそうで10年前と比べると10000トン近く減っていることになる。この減り方は尋常ではない。原因は気候の急激な変化や漁師の減少など色々と言われているが、根底には昆布に対する消費者離れが大きいように思われる。消費が減退することで販売店が減り、生産者も減り魅力の無い業界に変わってゆく。この業界で生きている私にとってこの状況は特に深刻である。生活が便利になりすぎて手間がかからず、安いものがもてはやされて物の本質が忘れられているような気がしてならない。このところ業界団体では食育の観点から幼稚園児に昆布の話をしたり、親子料理教室などを開き広報活動に力を入れている。私自身も些細ではあるが講演じみたことも行っている。添加物だらけの安い食品に対して宣戦布告をする準備は整いつつあると私は信じている。